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腹膜透析(PD)

透析患者の課題とこれから

患者さんと一緒に歩む栄養管理

神田 英一郎 先生

神田 英一郎 先生川崎医科大学医学部 学長付特任教授

 透析患者さんの栄養管理では生涯を通じた取り組みが必要ですが、持続可能な到達目標(Sustainable Development Goals;SDGs)を設定すれば、患者さんはより充実した人生を送ることが期待できます。また、日本では高齢化の進展に伴い、低栄養の透析患者さんにおいてサルコペニアやフレイル、認知症などの合併率が上昇し、こうした合併症の予防管理の重要性も指摘されています。このような背景を踏まえ、透析患者さんの低栄養の現状を紹介するとともに、日本透析医学会の学術委員会栄養問題検討ワーキンググループが開発した栄養学的リスクを評価するツール(nutritional risk index for Japanese hemodialysis patients;NRI-JH1))について解説します。

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高齢透析患者さんの低栄養とは

 日本では高齢化の進展とともに透析患者さんも高齢化しており、そうした患者さんでは低栄養が多く認められます。日本透析医学会が行った2015 年末の調査2)では、透析患者さんの血清アルブミン濃度は加齢に伴い低下する傾向があり(図-左)、75 歳以上では半数以上が低アルブミン血症を来していました。また同学会の『慢性透析患者の食事療法基準』では、たんぱく質摂取量として0.9~1.2g/kg/日が推奨されていますが3, 4)、たんぱく質摂取量の近似値として用いられる標準化蛋白異化率(nPCR)についても、前述の調査では高齢透析患者さんの半分以上が基準以下であることが示されました(図-右)。

透析患者さんの栄養状態

透析患者さんの栄養状態

(日本透析医学会 わが国の慢性透析療法の現況2015年12月31日現在 より一部改変)

 

 透析患者さんによく見られる低栄養はprotein-energy wasting(PEW)と定義され、その診断基準は ①低アルブミン血症など生化学検査の異常、②体格の変化、③筋肉量の減少、④食事摂取量の減少−の4項目です5)

 透析患者さんのPEWには、低栄養に炎症性サイトカインが関与することで慢性炎症や動脈硬化性疾患を合併しやすい、心血管疾患(CVD)や死亡が発生しやすいという特徴があります6)。また、健康人では過栄養がCVDの発症原因となるのに対し、透析患者さんでは総コレステロール値や体格指数(BMI)が低いほどCVD発症や死亡リスク上昇につながりやすいという報告もあり7)、注意が必要です。

 透析患者さんの栄養管理ではこうした特徴を理解した上で、さらに詳細な検査を行い、フォローしていくことが求められています。

栄養管理におけるスクリーニングの重要性

 低栄養の透析患者さんに対する栄養管理では、患者さんの状況や病態の適切な評価が重要ですが、臨床現場では全ての患者さんに詳細な検査を行うのは難しい場合がしばしばあります。また、定期的な採血などの検査だけでは、低栄養の原因の特定には十分でない場合もあります。

 しかしながら、適切なスクリーニングを行えば、低栄養や炎症を伴う患者さんの早期発見は可能です。さらに、早期に治療を開始するほど栄養状態や身体機能の改善が見込めるので、スクリーニングによる低栄養の早期発見は患者さんのためにも役立ちます。

 栄養状態の評価については血清アルブミン濃度が頻用されていますが、複合的栄養指標〔subjective global assessment(SGA)、malnutrition inflammation score(MIS )、geriatric nutritional risk index(GNRI )、NRI-JHなど〕を併用することで、患者さんの栄養状態のより正確な評価ができます8, 9)

 評価の結果、透析患者さんの栄養状態が中~高リスクであれば合併症の有無についても検査・診断し、栄養管理と同時に合併症の治療も行います。

日本の透析患者さんの状況を反映したNRI-JH

 既存の総合的栄養指標であるSGA、MIS、GNRIなどは、作成の根拠となった研究対象が日本人の透析患者さんではないなど、必ずしも日本の透析医療における最適な栄養指標とはいえないものでした。

 そこで日本透析医学会学術委員会栄養問題検討ワーキンググループでは、日本透析医学会統計調査(JRDR)のデータを基に、透析患者さんの複合的栄養指標としてNRI-JHを開発しました。この指標はBMI、血清アルブミン濃度、血清総コレステロール濃度、血清クレアチニン濃度をそれぞれスコア化し、透析患者さんを低・中・高の3 段階のリスク群に分類するものです。

 多忙な臨床現場では、頻回の実施が困難な検査項目から成る栄養指標は実用的ではありません。NRI-JHは、透析医療の現場で頻用される検査項目のみを用いるので、非常に簡便だといえます。

 また、スコア化により透析患者さんの経時的な変化を捉え、状況を判断することができます。各項目のカットオフ値は透析患者さんの特性、年齢、性に合わせて決定したため、中リスクや高リスクに関しても診断できるよう工夫されています。

 なお、に示した「NRI-JH簡易版」は、臨床現場でより簡便に活用できるようにスコアの分類などを簡略化したものです。

NRI-JH簡易版

NRI-JH簡易版

(加藤明彦, 他. 透析会誌 2019; 52: 319-325)

 

 透析患者さんに対する治療では、運動療法により身体機能が改善すること10, 11)、運動療法と栄養療法の組み合わせにより身体機能が改善すること12, 13)が報告されています。つまり、運動療法と栄養療法の併用により、患者さんの日常生活動作(ADL)や生活の質(QOL)の向上が期待できます。

持続可能な体制で透析治療を行うために

 透析患者さんに対する栄養管理に関しては、患者さんの多くが若かったころの日本社会の栄養状態を基準とした教育や知見の共有が、現在も続いています。しかし、急速に進む超高齢社会においては、実情に合わせて栄養管理を見直し、新たなエビデンスを蓄積することで、新しい時代に即したものにしなければなりません。

 また、透析患者さんに対する栄養指導は、医師だけではなく栄養士や看護師、臨床工学技士など、透析医療に関わる全ての医療者による多職種連携が重要であり、チームで携わる必要があります。さらに、一般集団より高齢の透析患者さんは認知症の合併率が高いとされており、認知症ケアを踏まえた多職種での対応や社会的な協力が必要となります。

 今、世界ではSDGs が人類の実現すべきテーマとして掲げられ、17の目標が示されています。その目標3は「保健」であり、「あらゆる年齢の全ての人々の健康的な生活を確保し、福祉を促進する」とされています。こうした視点から栄養管理を含む透析患者さんの治療を考えると、患者さん自身が「透析後の人生を、どう生きるか? 」を考え、多職種によるチーム医療が持続可能な体制を構築し、患者さんの暮らしや人生を支えていくことが求められています。そうした持続可能な透析治療を実現する上で、栄養療法や運動療法をはじめとする患者さんを中心としたケアが役立つことを願ってやみません。ぜひ、透析患者さんの栄養療法の発展に向け、私たちと一緒にエビデンスづくりにご協力いただければと考えています。

 

参考文献

1)  Kanda E, et al. PLoS One 2019; 14: e0214524.
2)  日本透析医学会 わが国の慢性透析療法の現況2015年12月31日現在.
3)  日本腎臓学会. 慢性腎臓病に対する食事療法基準 2014年版. 日腎会誌 2014; 56: 553-599.
4)  日本透析医学会学術委員会ガイドライン作成小委員会栄養問題検討ワーキンググループ. 慢性透析患者の食事療法基準. 透析会誌 2014; 47: 287-291.
5)  Fouque D, et al. Kidney Int 2008; 73: 391-398.
6)  Liu Y, et al. JAMA 2004; 291: 451-459.
7)  Kopple JD, et al. Kidney Int 1999; 56: 1136-1148.
8)  Yamada K, et al. Am J Clin Nutr 2008; 87: 106-113.
9)  Kalantar-Zadeh K, et al. Am J Kidney Dis 2001; 38: 1251-1263.
10)  Heiwe S, et al. Am J Kidney Dis 2014; 64: 383-393.
11)  Sheng K, et al. Am J Nephrol 2014; 40: 478-490.
12)  Dong J, et al. J Ren Nutr 2011; 21: 149-159.
13)  Hristea D, et al. Nephrology (Carlton)  2016; 21: 785-790.

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