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腹膜透析(PD)

末期腎不全における療法選択

腎不全治療における Shared Decision Makingの実践(座談会)

PDFで見る(2.8 MB)

 高齢者を中心に慢性腎臓病(CKD)患者が増加する中、末期腎不全に対する腎代替療法(RRT)の選択が重要な課題となっている。RRTの選択は患者のQOLを大きく左右する可能性があるためだ。
 そこで、患者および家族が治療に対する理解を深め、医療者とともに最善の治療選択を行うことを支援する手段として、Shared Decision Making(SDM)が注目されている。
 今回、臨床現場でRRT選択時のSDMに積極的に取り組んでいる医師、看護師にご参集いただき、日本におけるSDMの概要および各施設の現状についてご報告いただくとともに、スタッフ教育、患者へのアプローチ方法、今後の課題などについてディスカッションしていただいた。

 

【司会】

群馬大学大学院 医療の質・安全学講座 教授 小松 康宏 先生

【出席者(発言順)】

日本医科大学多摩永山病院 腎臓内科 准教授・部長 金子 朋広 先生
信楽園病院 血液浄化療法室 看護師長 中村 道代 先生
愛媛県立中央病院 腎糖尿病センター 透析室 看護師長 川田 仁美 先生
東海大学医学部付属八王子病院 腎内分泌代謝内科 講師 石田 真理 先生

 

座 談 会 2020年10月開催


腎代替療法選択における共同意思決定の重要性

 

 近年、Shared Decision Making(SDM)がさまざまな疾患領域で注目されるようになった。SDMとは、治療に対する意思決定支援方法の1つで、複数の治療選択肢の中から、患者と医療チームが共同で患者にとって最良の医療とケアを決定するために、繰り返し話し合うプロセスだ。SDMでは①エビデンスに基づく医学的情報②医療チームによる提案③患者の価値観、意向、懸念事項など―の3項目を患者、家族、医療チームが共有することが重要とされている1)

 

患者の価値観を考慮し、治療法選択への参加を促す

 わが国では、腎代替療法(RRT)として腹膜透析(PD)または腎移植が選択される割合が諸外国に比べて非常に低く2)、治療法選択のプロセスに改善の余地があるのではないかと考えられる。また、2020年に日本透析医学会が作成した『透析の開始と継続に関する意思決定プロセスについての提言』3)では、透析療法を開始または中止する際にはSDMを十分に行うことを提言している。

 RRTの選択は、生命予後やQOLに大きな影響を及ぼすため、生き方そのものの選択といえるほど重要だ。患者は透析導入時に「自分の生活がどのように変わるか」に最も不安を感じていたというデータもある4)。治療法決定のプロセスにはSDMの他に、インフォームド・モデルやパターナリズムがあるが5)、SDMでは医学的情報に加えて患者の価値観や生活状況も踏まえ、医師と患者がともに最終決定を下す。

 SDMによって、治療法の選択が容易になる、患者の満足度や診療・ケアの質が向上するなどの利点がもたらされることが期待されている。SDMは患者に問題が生じたときから治療を開始するまでの長いプロセスであり、①信頼関係の構築②話し合いの開始③治療選択肢の説明④患者の価値観、意向、不安の聴取⑤患者との共同意思決定⑥決定の評価とフォローアップ6)—と進める(表)。「患者が医師に一任する受け身の姿勢ではなく、積極的に治療に参加し自らも責任を持ってもらう」「そのために必要十分な医学情報を丁寧かつ適切に伝える」「患者の価値観や意向を踏まえた治療法を選択する」—ことが求められる。

 

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いかに患者満足度の高い治療法決定に至るか

 SDMの重要性や手順を頭では理解していても、患者を巻き込むのが難しいなど、実践には困難な点もある。忙しい医療スタッフと患者、その家族が話し合う場をどのように設けるか、あるいはSDM外来などの専門外来を設置することも課題として挙げられる。2020年9月に腎臓病SDM推進協会が刊行した『慢性腎臓病患者とともにすすめるSDM実践テキスト』には具体的な手法が示されているので、参考にしていただきたい。また、治療法の説明支援ツールとしては、日本腎臓学会などによる『腎不全 治療選択とその実際』7)、『腎代替療法選択ガイド2020』8)が刊行されており、患者との話し合いを促すカンバーセイションエイドである『腎臓病 あなたに合った治療法を選ぶために』9)を組み合わせて使うこともできる。

 今後の課題の1つはSDMの評価だ。SDMのプロセスとアウトカムの評価が中心になる。患者の価値観を引き出すようなプロセス評価では共同意思決定質問票(SDM-Q-9)などの調査票、アウトカム評価では治療成績やQOL評価スコアが適切だろう。

 診療報酬に関しては、2020年に腎代替療法指導管理料(500点)10)が新設されたので、これを機に日本でのSDM普及が進んでほしいと考えている。

 

1)National Quality Partners. Shared Decision Making Action Brief 2017.
2)USRDS. “Volume2 ESRD, Chapter11: International Comparisons”. 2018 Annual Data Report.
https://www.usrds.org/media/1738/v2_c11_intcomp_18_usrds.pdf
3)日本透析医学会. 日本透析医学会雑誌 2020; 53: 173-217.
4)NPO法人腎臓サポート協会. 2019年会員アンケート結果報告.
https://www.kidneydirections.ne.jp/wp-content/themes/kidney-web/pdf/report/report_result_2019.pdf
5)Charles C. et al. Soc Sci Med 1999; 49: 651-661.
6)腎臓病SDM推進協会編. 慢性腎臓病患者とともにすすめるSDM実践テキスト. 医学書院, 2020.
7)日本腎臓学会, 他編. 腎不全 治療選択とその実際 2020年版.
https://cdn.jsn.or.jp/jsn_new/iryou/kaiin/free/primers/pdf/2020allpage.pdf
8)日本腎臓学会,他編. 腎代替療法選択ガイド2020. ライフサイエンス出版, 2020.
9)腎臓病SDM推進協会. 腎臓病 あなたに合った治療法を選ぶために 改訂第3版.
https://www.ckdsdm.jp/document/booklet/images/sdm.pdf
10)厚生労働省. 令和2年度診療報酬改定の概要(技術的事項).
https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/000616844.pdf

 


退院後を見据えたSDMへの注力

 

 当院は1977年7月に、東京の多摩ニュータウンにおける基幹病院として開院した。腎臓内科が開設されたのは2015年4月である。開設当時、他院からの末期腎不全患者の紹介内容は「シャントの作成」や「血液透析(HD)の導入」が大半を占め、「腎代替療法(RRT)=HD」と捉えられていた。院内にも腹膜透析(PD)に詳しい看護師はほぼおらず、RRTの説明は外来担当医師である私が1人で行っていた。

 

PD導入のため勉強会からスタート

 このような状況であった当院におけるShared Decision Making(SDM)の取り組みの第一歩は、PD導入の体制づくりだった。そのために、看護師など多職種に対して院内勉強会を何度か実施し、当科開設から約1年後、PDの診療を開始した。

 第1例では、退院直前にタッチコンタミネーションによる腹膜炎を発症するなど予期せぬトラブルが起こったが、本症例を通じて病棟スタッフ、外来スタッフともに、PD関連の腹膜炎や出口部ケアについて多くの知識と経験を得ることができたと考えている。

 PD診療の開始後、RRT選択外来の開設に向けて動き出した。まず、当院スタッフは腎移植に関する知識が乏しかったため、近隣施設から腎移植の経験豊富な医師および看護師を招き勉強会を開催した。また前述のPD1例目の患者はその後、短期間のHDを経て腎移植を受けており、経験を当院スタッフに話してもらう機会を設けた。そして、2019年にRRT選択外来の開設が実現した。

 

訪問看護ステーションとSDMでも連携

 しかし、RRT選択外来開設後、新たな壁にぶつかることになった。それは、高齢患者におけるRRTの選択だった。当院のRRT導入患者は高齢男性が多く、独り暮らしまたは配偶者との2人暮らしで、心血管疾患や認知症を合併していたり、エレベーターのない団地住まいをしていたりすることも多い。外来での情報だけでは家庭環境がつかみづらく、透析を導入しても、階段の昇降ができず自宅退院がかなわないなど、治療継続が困難になる患者が少なくなかった。

 そこで、訪問看護ステーションとの連携を図った。PDでは手技や出口部、HDではアクセスの確認など導入後のフォローを担ってもらうだけでなく、SDMに参加してもらっているのが当院の特徴といえる。入院前に医師および当院外来スタッフがRRTについて説明した後、訪問看護師が患者の自宅を訪問して家庭環境を考慮しつつ、患者が話しやすい状況で話し合う。患者は病院では話しにくい内容を自宅では話してくれることも多く、療法選択に当たっての重要な情報が得られる。さらに、最近は透析導入後のSDMにも関わってもらっている。PDを導入したものの治療が負担になる患者もいれば、HDを選択したが通院が困難でPDに変更を希望する場合もある。もしくは移植についてもう一度勉強したいと考える患者もいる。そうした情報を訪問看護師から得た上で改めてSDMを行い、治療の変更を検討できるため、導入時と同様に大切な導入後のSDMを実現する上で、訪問看護師の力は非常に大きいと考えている(図)。

 

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 今後の課題は非導入の問題ではないだろうか。RRTの説明を行う際、最初は非導入を望む患者が一定数存在する。近隣の透析施設のスタッフに、両親や自分であればどの治療を選択するかをアンケートした結果、HD専門クリニックでは非導入を選択するという回答がPDを上回り、PDも行っている施設ではPDを選択するという回答が非導入を上回った。つまり、PDをよく知らない場合、非導入を選択する傾向が強まる可能性がある。患者が望む治療を提供するためには、個々の医療スタッフが知識や経験を積むとともに、患者および家族の心情に寄り添ったSDMの実践が重要であると感じている。

 


看護相談や外来見学を通じて行う患者の治療理解支援

 

 当院は新潟県新潟市に所在し、1968年3月に血液透析(HD)を開始した。血液浄化療法室は腎臓内科医8人、看護師60人、臨床工学技士12人のチームで構成されている。透析室は150床で、HD患者は約380例、うち入院患者が40例程度、夜間HD患者が100例程度。腹膜透析(PD)は4例で、うち3例が2019年からの新規導入だ。献腎移植登録者は現在13人で、2019年度は生体腎移植2例、献腎移植1例を新潟大学病院で実施した。

 

カルテで読み取れない患者情報を会議で共有

 Shared Decision Making(SDM)の取り組みは、2018年10月に腎看護相談室を開設し、腎療法選択支援チームを発足したことから始まった。現在のメンバーは慢性腎臓病療養指導看護師4人、透析室PD担当看護師4人を含む看護師13人だ。電子カルテの腎療法選択支援シートおよび生活記録シートに患者の生活パターンや家族構成、日常生活動作(ADL)の程度などを記録し、同支援チームで共有している。このシートを用いて毎月1回会議を行い、それぞれの活動や運用の見直しを図っている。会議でのやり取りを通じ、カルテだけでは読み取れない患者や家族の詳細な情報が共有できる。患者への理解を深め、問題点を明らかにすることで、今後の介入方法についての話し合いも可能となる。

 

HD、PD外来見学で患者に治療をイメージしてもらう

 当院のSDMは次のような流れで行っている。まず、腎臓内科医が外来診察室で慢性腎臓病(CKD)ステージG4~G5の患者に腎代替療法(RRT)について説明。次に、内科外来看護師による腎看護相談室でのRRT指導を行う。その後、患者の状態に応じ、透析室のHD、PD外来を見学してもらいながら、透析室PD担当看護師が再度説明する(図)。

 

信楽園病院におけるSDMの流れ

 

 腎看護相談室では、当院独自のツール、日本腎臓学会などの『腎不全 治療選択とその実際』、腎臓病SDM推進協会の『腎臓病 あなたに合った治療法を選ぶために』の3種類を使って指導を行う。患者が導入後の日常生活をイメージできるような情報提供を心がけるとともに、『腎臓病 あなたに合った治療法を選ぶために』を用いて患者の病気に対する思いや、生活の中で大切にしていることなどを確認している。冊子には、患者自身では半分ほどしか記入できない場合も多く、話を聞きながら一緒に書き込み、時間をかけて少しずつ進めている。指導に要する時間は1回60分程度で、1患者当たり1〜3回程度だが、高齢で自ら治療を選択することが難しく、家族も同席しない患者などでは意思決定に時間がかかり、指導の回数が増える傾向にある。

 透析室のHD、PD外来の見学は、「実際の治療の様子を見てみたい」との患者からの希望を受けて開始した。担当スタッフは、事前にカルテの看護記録から情報収集をした上で指導に臨んでいる。患者には前述の3つのテキストを持参してもらい、スタッフが面談の記録欄を確認、追記しながら、それぞれのRRT導入までの流れ、日常生活の注意点などを具体的に説明する。HDはベッドサイドで治療の様子を見学、PDではバッグ交換の疑似体験や機械の紹介を行い、どちらも先輩患者と直接話をする時間を設けている。「自分にはPDは無理」と言っていた患者がPD患者と話したことで自信を持ち、自動腹膜透析(APD)を選択した例もあり、外来見学が治療の理解や不安解消に役立っていると考えられる。

 腎療法選択支援チーム発足後2年がたち、腎看護相談や透析室見学が院内に浸透してきたが、まだ末期腎不全患者全例には実施できていないのが課題と考えている。加えて、医師および看護師と患者、家族が同席し、ゆっくりと話ができるような環境や、透析室のスタッフ全員がSDMを実施できるような教育環境の整備が必要だと感じている。

 


経験学習、症例検討、業務の可視化などSDMを実現するさまざまな取り組み

 

 当院の透析室は45床で、年間新規導入患者数は血液透析(HD)100例前後、腹膜透析(PD)10例前後、現在の患者数はHD約80例、PD約40例だ。透析室看護師はHDの管理やPD外来、腎代替療法(RRT)選択外来なども担当。RRT選択外来は2019年度から本格稼働し、実施件数は従前の50件前後から同年度は約120件に増えた。

 

SDMの理解から経験学習を経てRRT選択外来担当へ

 当院では、Shared Decision Making(SDM)に本格的に取り組むに当たり、SDMを理解する学習から始めた。次にSDM実践にはコミュニケーションが重要と考え、透析室看護師による勉強会を開催。意思決定の全過程をサポートするために、コーチングや積極的傾聴、患者の時間軸を捉え患者とともに考えることの大切さなどを学んだ。

 また、症例から反省点を検討し、次の意志決定支援へつなげることを試みた。実際の症例はスタッフにとってイメージがしやすく、状況により生じる患者の気持ちの変化、今後の生活を見据え患者が治療を検討する時間を確保することの重要性など多くの気付きがあった。症例の振り返りは、スタッフの経験を記録し共有できる「リフレクション」として継続を決めた。

 さらに、透析室の全看護師がPD外来、RRT選択外来を担当できるよう経験を通して学びにつなげる「経験学習」を推進。まず、熟達者の関わり方を学べるよう勤務調整を行い「外来見学」を実施した後、「見守り付き実施」「1人で実施」と順に進めた。

 

ロールプレイで課題を抽出し改善

 ロールプレイを通じ、情報提供の内容やタイミング、各部署との連携内容、患者の理解を促すための介入方法や資料について検討し、主に4つの問題に取り組んだ。「①患者自身の慢性腎臓病(CKD)ステージの理解不足」には、通常外来の度に医師と外来看護師が患者にCKDステージを伝えることとした。「②保存期からの自己管理に必要な情報提供不足」には、早期から外来での情報提供と自己管理指導を開始。「③RRT選択外来受診のタイミングの遅れ」には、CKDステージG4でのRRT選択外来受診開始を目指した。「④長時間のRRT選択外来は高齢患者の集中力が続かない」という点には、外来時から介入し時間短縮につなげることを考慮。なお、使用する資料と活用時期は、外来看護師と相談し決定した。

 この他、円滑な多職種連携のために医師と看護師で週1回カンファレンスを開き、RRT選択外来受診前後、RRT治療中の患者の情報共有と対応を検討している。また、外来通院時から患者や家族の情報を記入し多職種で共有する記録用紙、患者への説明内容を記載し患者と医療者で署名する説明書などの書式を整備。さらに、医師、外来および透析室看護師の業務を可視化した「療法選択支援フローチャート」を作成。各担当の役割、患者に渡す資料と時期、必要書式が一覧になっている(図)。

 

愛媛県立中央病院で作成したフローチャート(2020年版)

 


腎代替療法選択指導開始までの5ステップ

 

 東海大学病院は腹膜透析(PD)が日本で導入された初期に治療を開始した施設だが、被囊性腹膜硬化症(EPS)を経験して以降は、PDに対し消極的な姿勢であった。関連施設である当院でも、5年ほど前までは腎代替療法(RRT)選択指導も行われていなかった。

 しかし現在は、EPSリスクを過度に懸念して医師がPD導入を控えるような時代ではない。選択肢があるという情報を患者に提供せずに治療法を決めることは、どの疾患であっても許容されるものではないと考える。そこで、Shared Decision Making(SDM)の手法を取り入れた適切な情報提供を行うため、RRT選択指導の開始に向け5つのステップを踏んで取り組んだ(図)。

 

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ステップ1〜5を段階的に進める

 ステップ1として、腎臓内科医と看護師の多職種が連携するチームを発足させるため、関連分野の教授や看護部長にRRT選択指導の必要性を説明して指導開始の許可を得た。看護師の業務増につながる提案ではあったが、看護部長に説明を重ね、RRT選択指導は余計な押し付け仕事ではなく看護師が責任を持って取り組むべき業務であることを理解してもらい、許可が得られたと考えている。

  ステップ2では、同チームを中心に外来における情報提供をSDMの手法で行う体制を構築すべく、腎内分泌代謝内科内で外来でのRRT選択指導の実施方針を共有し、医師の同意を得た。指導には、外来で空いているブースを活用することとした。

  ステップ3では、RRT選択指導を担当する看護師の選定と担当可能な外来枠の設定を進めた。当院では、病棟の看護師が担当することとなり、腎不全患者の入院病棟に勤務する看護師の中からPDや血液透析(HD)に精通した経験豊富な3人を選ぶとともに、病棟から外来に移動し説明するための時間の確保について病棟師長および外来師長と打ち合わせを行った。同時に、管理栄養士、薬剤師、医療ソーシャルワーカー(MSW)が連携し、月1回開催していた腎臓病教室もブラッシュアップした。

 ステップ4では、SDMに関する勉強会を科内で開催した。看護経験や腎臓内科専任の経験年数が長い看護師であっても、RRT選択指導に際し不安を持っていたためだ。また、腎移植、HD、PDの3つの治療法については、RRT指導を担当する看護師には近隣の医療施設と合同で複数回行われた勉強会に、参加してもらった。

  ステップ5でいよいよ実践となる。対象は推算糸球体濾過量(eGFR)が30mL/分/1.73m2未満の患者全例とし、SDMの手法を用いたRRT選択指導を開始した。その際の資料として、日本腎臓学会他の『腎不全 治療選択とその実際』、腎臓病SDM推進協会の『腎臓病 あなたに合った治療法を選ぶために』を使用している。多職種により、療法選択支援を複数回行うことが重要であり、当院ではRRT担当看護師による患者背景の聞き取りや患者の気持ちの傾聴の後、HD、PD、移植の説明と外来透析室の見学やPD機器の実物の紹介を行っている。

 

診療報酬改定がSDMの追い風に

 2020年度の診療報酬改定において、腎代替療法指導管理料(500点)1)が新設された。これは、保存期腎不全の段階からRRTに関する情報提供を実施した場合に算定できるもので、多職種で行われることが要件の1つとなっている。多職種での取り組みが評価された点は、看護師のモチベーション向上につながっていると感じる。

 このような取り組みの結果、当院では透析導入前に全例でSDMの手法によるRRT選択指導が必ず行われるようになった。ただ、一度治療を選択しても状況の変化に応じて治療変更を検討できるよう、透析導入後のSDMも重要となる。また、終末期のアドバンス・ケア・プランニング(ACP)の充実も課題の1つであり、これもSDMの手法で実施することが必要と考えている。

 

1)厚生労働省. 令和2年度診療報酬改定の概要(技術的事項).
https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/000616844.pdf

 


ディスカッション

腎不全治療におけるSDMの実践について

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SDMで大きな役割を果たす看護師

小松 各先生のご報告を踏まえて、ディスカッションしたいと思います。まず、Shared Decision Making(SDM)の実践においてどの施設でも看護師が大きな役割を果たしていますが、各施設でどのような体制で行っているのでしょうか。

金子 中村さんの施設では、透析室での説明を腹膜透析(PD)担当看護師4人で担当しているとのことですね。メンバーは固定ですか。

中村 はい。PD担当看護師が担当しています。約1年で1人ずつ交代するので、PDの知識がある看護師は他にも複数います。

金子 当院でもPDを選ぶ患者の方が詳細な説明を受ける傾向にあるので、PD担当の看護師の方がSDMに関わりやすいのかもしれません。しかし、血液透析(HD)を導入した患者が将来PDに変わる可能性もあるので、両方に対応できる看護師が増えるとよいですね。

小松 石田先生の施設では、病棟の看護師が腎代替療法(RRT)説明の際に外来に来るということですね。最初に担当になった3人が、現在も両方の説明をされているのですか。

石田 当初の病棟看護師3人からは徐々に入れ替わっています。病棟勤務の中でHD、PD両方の患者に接するチャンスがありますし、透析室看護師も常にRRT選択ができるよう勉強してくれているので担当できる看護師は複数います。ただ、看護師は頻繁に部署異動があるため、継続教育は課題の1つですね。

川田 当院の看護師は透析室に配属になると平均7~8年は同じ部署に勤務します。ただ、人員削減のため私が赴任してから4人ほど異動してしまい、新しく異動してきた2人を先任看護師が育てるという形になっています。

小松 RRT選択指導に関わる看護師は、透析に関する知識を求められますが、川田さんの施設では看護師はどの部署に所属されているのですか。

川田 所属としては外来透析室になります。保存期患者の対応というより、血液透析を担当している看護師が、外来業務としてRRT指導を兼任するという形です。

小松 金子先生の施設ではいかがでしょうか。

金子 当院は保存期に携わる外来看護師と透析室看護師が担当しています。外来看護師は腎臓内科専属ではなく内科全般を受け持っていますが、透析室に配属経験のある看護師が担当しているので、HD、PD両方の知識を持っています。当院の看護師も異動が多いですが、かえって院内に経験者が増え、SDMへの理解が得られているとも感じます。

小松 各施設、状況によってSDMを担当する看護師の所属や体制はさまざまですね。

 

患者に治療選択へ参加してもらうために

小松 SDMでは患者を話し合いに巻き込むという点が重要ですが、RRT選択外来を受診してもらうことについてご意見をお伺いします。石田先生の施設ではRRT選択外来受診率は100%とのお話でしたが、金子先生の施設ではいかがですか。

金子 とても100%とはいきません。透析を拒否し非導入を選ぶ方もいて、そのような場合は根気強く説得し、ようやくRRT選択外来を受診してくれるケースもあります。一方で、透析導入段階直前になってもなかなか受診してもらえない場合もあります。難しいですね。

小松 中村さんの施設では、まだ全透析導入患者が腎看護相談を受けているわけではないとのお話でしたね。

中村 はい。当院には腎臓内科医が複数いますが、医師が自分の説明で十分と考える場合などは、腎看護相談室で説明するには至らないケースもあります。まだ理解が得られていない部分があると思います。

小松 愛媛県立中央病院では、フローチャートに従いクレアチニン値や推算糸球体濾過量(eGFR)が一定の範囲に達している場合、RRT選択外来に紹介される仕組みになっているのですか。

川田 最終的にRRT選択外来への予約を行うのは医師ですが、まだ全例実施には至っていません。

石田 診療報酬改定で腎代替療法指導管理料1)が新設されたことを理由に、看護師から医師にSDMを行ってほしいと声をかける方法も有効かと思います。当院では「導入が近い」との医師の言葉を聞いた瞬間に、外来看護師が「先生、SDMをお願いします」と声をかけたりしています。また、透析導入のために入院した際にまだRRT選択指導が行われていない場合には、その段階で病棟で実施しています。

小松 私が以前に勤務していた施設では、医師によって各RRTの選択率に大きな差があると感じたことがありました。それには各医師の患者に対する説明の違いが影響しているのではないかと考え、eGFRが30mL/分/1.73m2程度に低下した際には、原則として看護師が行うRRT選択外来を受診してもらうよう受付から医師に声をかけるという形にしました。やはり、看護師が説明に関与することで治療法選択のばらつきは減るのでしょうか。

金子 私はそう思います。「最初からHDと決まっている」と医師が判断すると、そこで治療法が決定してしまいますが、看護師からRRT選択外来の受診を勧められ、担当看護師と話し訪問看護師とも関わる間に、患者の気持ちが変わってくるケースがあります。個々の医師の説明の仕方などによって患者の治療に対する理解や受け取り方は異なってきますので、多職種による対応でそのギャップは埋められると考えています。

小松 説明にかかる時間は60分以上になる場合もあるようですが、川田さんから特に高齢者で集中力を維持しにくいという指摘がありました。われわれ医療者としては、理解してもらおうと一生懸命説明し、話が長くなってしまいがちですが、患者の興味の幅を広げていくようにするなど何か工夫している点はありますか。

石田 看護師が患者を連れて透析室の見学に行くなどは、気分転換にもなってよいですよね。

中村 当院ではDVDの視聴を行っていますが、視覚に訴えられる点が好評なようです。長時間の口頭説明では飽きてしまいがちな高齢の方も、DVD鑑賞を機に興味を持っていただける場合があります。

 

SDM推進に向けた今後の課題

小松 先生方がSDMに取り組まれてきた中で、問題点や今後の課題としては、どのようなものがありますか。

金子 どうしても主治医の意向がRRT選択の方向性を左右するため、事前に主治医以外の関係者も患者の情報を共有できるような体制をつくる必要があると思います。また、糖尿病患者など透析予防外来に熱心に通い透析の回避を頑張っていた方にとって、RRT導入の話題は精神的ショックが大きくなります。ですから、RRT選択外来に移行するタイミングはケースバイケースで考えなければいけないと感じています。

小松 RRTについて患者に話すタイミングは難しいですよね。直近2回のeGFRが30mL/分/1.73m2未満になった段階が1つの目安とされていますが1)、その後のeGFR低下速度は原疾患や年齢などよって患者ごとに幅があります。ただ、30mL/分/1.73m2程度の段階で一度「RRT選択外来がある」などの簡単な話をしておいて、詳しい話は病状に応じて様子を見ながら伝えてもいいのではないでしょうか。

中村 SDMを行った患者では、透析導入後の治療が、スムーズに進められると実感しています。そうした視点で考えると、対象患者全例に、RRT選択外来で説明することが大きな目標になると改めて思いました。また、SDMが実施できるスタッフを増やしていきたいと思っています。

小松 川田さんは検討したい課題や展望はありますか。

川田 当院では、以前は行われていた集合教育が立ち消えになっているので、2020年の後半から患者向けの透析予防に関する集合教育を再開したいと考えています。個別指導の強化も目指し、栄養部と薬剤部に協力を依頼しています。もう1つは、当院で透析を導入した後、サテライト病院に通院する患者に関して、透析導入に対する患者の思いを含め、入院中の関わりをサテライト病院に情報提供ができれば、地域との連携強化にもつながると考えています。

小松 それでは最後に、石田先生からメッセージをお願いします。

石田 本日の座談会を通して、医師や看護師である皆さんが真摯にSDMに取り組まれていることが実によく分かりました。患者が自分らしい人生を送るための手段として、今後もSDMを活用しながらより良い腎不全医療を行っていただきたいと思います。そしてまた、今日、皆さんからご提供いただいたとても有益な情報が腎不全医療に携わる多くの医療者に届けられ、SDMを通した療法選択の芽が広がっていくことを願っています。

小松 各施設の貴重な取り組みを共有することができる非常に良い機会になったと思います。本日は、どうもありがとうございました。

 

1)厚生労働省. 令和2年度診療報酬改定の概要(技術的事項).
https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/000616844.pdf

 

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